地中熱利用住宅って?
前もってお断りしますが、はやりの『地中熱』という言葉などには振り回されないでください。一歩進んだ断熱工法のお話です。
@【パッシブ地中熱】
文字通り地中にある自然の熱を利用する住宅のことですが、地底奥深くにあるマグマや温泉の熱を利用する地熱利用とは違います。
地球の表面には膨大な太陽の熱がふりそそいでいますが、地表1平方メートルにふりそそぐエネルギーは1kWl前後にも達します。
このエネルギーは地表のみではなく地下深くまで伝わり、大地全体を暖めているわけです。
以下の表をご覧ください。 (グラフをクリックしてください)
これは盛岡地方気象台が観測した、ある年の地中温度のデータを調べてきてグラフ化したものですが、ご覧になっておわかりのように地下1m程度までは外気温に準じて地中温度も変化しています。一年のうち2月が一番寒くて8月が一番暑いですね。
ところが、6m以上深いところでは一年を通してほぼ一定の温度となっています。
この理由は2つあります。
1.土の熱の伝わりやすさ (熱伝導率)
2.土の断熱性
土の熱の伝わりやすさは、コンクリートの半分以下ですが、レンガや水とほぼ同じくらいで、木材の4倍以上です。 けっこう熱がよく伝わるんですね。
また土の断熱性は建築材料としてよく使われるグラスウールやウレタンフォームの1/20くらいですから、1mの厚さの土は5センチの断熱材程度の断熱性能があることになります。
熱の伝わりやすさと断熱性能は表裏一体のものですが、この「土の熱の伝わりやすさ」によって太陽の熱が地下深くまで届き、「土の断熱性」がその地中の熱を逃がさないで保つ理由でもあるわけです。
いってみれば土鍋のように、地中の熱はまんべんなくじっくりと伝わり、いったん暖まるとなかなかさめずに暖かいのです。
井戸水が夏冷たく、冬暖かく感じるのも地中の熱によって一定の温度に保たれているから、というのは誰でもが体験上、あるいは知識として知っていることですね。
そしてここからが大事な点ですので先ほどのグラフをもう一度よくご覧ください。
地下1mの深さまでは1年で一番寒いのは2月で一番暑いのは8月です。
ところがそこから1m深くなるにしたがって地中温度のピークが1ヶ月ずつあとに遅れていくことにお気づきでしょうか?
つまり地下5〜6mの深さでは夏と冬の温度が逆転しているのです。
井戸水が夏冷たく、冬暖かいと感じるのは、体感上暑いときに冷たい水を飲むから冷たいと感じるだけではなくて、実際の温度も数度ですが、夏の方が冬より冷たくなっているのです。
これは太陽の熱が地中を伝わっていくスピードが結果的に1ヶ月で1mほどであることを示しています。 夏の太陽熱エネルギーが約半年をかけて地下5〜6mまで達するわけです。 (正確にいうと蓄熱と放熱の平衡領域が移動するスピードということですが)
一番冷たくなった頃の地中の熱を一番暑い夏に冷房として利用し、一番暖かくなった頃の地中の熱を冬の一番寒い時に暖房として利用できないか、と考えたのが地中熱利用住宅なのです。
考えてみれば、一年で一番日が長く太陽熱の多い月は6月です。逆に一番日が短く寒いはずの月は12月なのですが実際には8月が一番暑く、2月が一番寒い月です。 これは地球の大気や大地が暖まったり冷たくなったりするには2ヶ月近くの時間がかかるということを意味しているわけです。
ですから、ある程度深いところの地中の温度が実際の季節より遅く上下するということは不思議でもなんでもありません。
さて、この地中熱を利用するにはどうにかして効率よく地中から熱を取り出さなくてはなりません。
そこで現在多くの人が考えているのが、深い井戸を掘ることです。
井戸といっても単なる竪穴なのですが、この中にパイプを通し、エアコンのようにガスや水を循環させて回収し、それを地上で熱交換して温風なり温水なりにして取り出す、というのが一番いいだろう、ということになります。
もちろん、これは理想的な方法かもしれないのですが、なにせ工事に費用がかかります。 日本では1mの穴をほるのに1〜2万円くらいのお金がかかるといわれていますので、必要な熱量を計算すると井戸の総延長は100m〜300mくらいになりますから穴を掘るだけで2〜3百万円もかかってしまいます。これにヒートポンプなどの熱交換設備の費用を加えると大体4〜5百万円くらいの金額になってしまうわけですね。 また、ヒートポンプというのは基本的にエアコンとおなじ仕組みですから、ランニングコストもかかります。 機械であれば故障もおきますし長くても20年くらいで寿命もやってきます。
これでは一般の住宅に利用するといっても、よほど物好きな人以外手がでないのではないでしょうか?
こうした方式の地中熱利用住宅はアメリカでは40万件ほどの実績があるそうですし、かの地では掘削費用が日本の1/3程度なそうで費用的はなんとか手が届く範囲ともいわれていますが、日本で将来的にそのくらいまで安くなるかといえば、昔、太陽光発電が出始めた頃もそのくらいの金額でしたから今後安くなる可能性は確かにありますが、敷地が狭く労働効率の悪い日本ではちょっと無理な気もします。
一般家庭用太陽光発電が安くなったのは太陽電池パネルが工場生産できる範囲であったからです。 地熱交換井戸の掘削などというのは100%現場作業ですから一品生産品ですので大量生産によるコストダウンというのはなかなか期待できないかもしれません。 (将来、短時間に安く掘削できるボーリングマシンなどが開発されたとしたら・・・? それはその時に考えましょう・・・。)
なんとか掘削費用を安くできないかと考えて工夫している会社もあります。 例えば井戸を掘るかわりに地盤補強をするための鋼製地中杭をうってその中に配管するとか、竪穴は掘らないで横にパイプを埋設するとか、いろいろです。
私たちはもっと簡単にシンプルにお金がかからずに現実的な方法はないかと検討を続けてきました。 地中熱を住宅の冷暖房に利用するというアイディア自体はとても魅力的に思えたからです。
環境にやさしく、あまり暑すぎも寒すぎもせず、燃費もかからず、枯渇しない自然なエネルギーを利用した人間にやさしいエコ住宅・・・うーむ。 いいですねぇ。
縄文の古来よりこうした掘っ立て家屋での生活というのは同様な形式だったわけですから決してむずかしい話ではありません。
半地下のような形の住居というのは世界中どこにでも見られますし室温が安定するこの形式は夏涼しく冬暖かいことで知られています。
実は私たちもこういう建物が暖かいことは経験上わかっていました。 基礎の外断熱などはすでに今までも何棟もやってきていますし、蓄熱層とする基礎コンクリート盤も作ってきました。 ただし、経験上の感覚だけで、裏づけとなるデータがなかったのです。
また、研究をしていくとそこで突き当たったのが地域差の問題です。
たとえば東京と盛岡では平均気温が6度も違い、そのままでは当地盛岡では無理があるということだったのです。
東京では深度5mの地中温度が18度あるのに対して盛岡では12〜13度しかありません。 これをそのまま蓄熱できたとしても13度の家ではとても快適とはいえませんから・・・。
寒冷地である東北で、こうした工法の地中熱利用住宅がほとんど見受けられないのには理由があったのです。 そこで、私たちは新たに盛岡という地域性にあったオリジナルな方法を考えなくてはならなくなりました。
***【地表熱放散】へつづく***