耐震改修工事例                       

                                             

では、実際に行われた「耐震改修」の実例をご紹介いたします。 この物件では断熱改修と全面リフォームをあわせて行っておりますので、いわゆるスケルトン・リフォーム(柱・梁などの主要構造を残しす
べて解体撤去して造りなおすこと)です。 したがって間取りの変更や急な階段の改善、水まわりの交換、断熱工事などもすべて含んだ工事となっています。

上記物件については、「耐震改修工事」に先がけて弊社による「木造住宅耐震診断」を実施しておりますので、この結果についてみていきたいと思います

診断種類     −   簡易診断および精密診断  耐震診断士による現地調査の結果を診断プログラムにより解析します。
計算プログラム  -   精密計算:国土交通省住宅局監修、(財)日本建築防災協会・(社)日本建築士会連合会編集「木造住宅の耐震精密診断と補強方法」に準拠したプログラムおよび国土交通省住
               宅局監修、(財)日本住宅・木材技術センター製作住宅性能計算プログラムにより計算・解析しました。

計算の結果  −    精密計算:
総合評点 0.6

ここで出てきた「総合評点0.6」とはどのような数字なのでしょうか。 国土交通省では以下のように規定しています。

                                 

耐震判定表
総合評点 判定 今後の対策
1.5以上〜 安全です 部分的な欠陥がある場合には、その程度に応じた対策を講じる必要があります。
1.0以上〜1.5未満 一応安全です
0.7以上〜1.0未満 やや危険です 補強改修等の対策を講じる必要があります。ぜひ専門家と相談してください。
0.7未満 倒壊または大破壊の危険があります


「総合評点0.60」の判定の要約は「震度6強〜7程度の地震では建物自体が倒壊する可能性がある」というものでした。(*この物件も1973年頃に建築された40年前の建物でした。)

前もってお断りしておきますが、ここで気をつけておきたいことは、実際には安全といわれる現在の建築基準において建てられた住宅であっても実験では震度6程度で倒壊した実例もあり「絶対安全」を
保証するというものではないことに留意してください。

 ただし
1981年(昭和56年)に建築基準法の改定により耐震基準が強化された以前の建物については総合評点0.7以下の建物が非常に多いということは確かで、阪神淡路の大地震の時に倒壊した住宅
もほぼこのレベルのものだったという調査結果が出ていますから、これを基準に考えることは決して間違いということではありません。
 十分根拠もあり、この判定を元に耐震改修工事を行えば「絶対安全」ではないにしろ、「まずほとんどの場合は安全」は確保できると考えられています。


耐震改修工事


今回の工事では既存の建物に断熱材が入っていなかったため同時に断熱改修を行っています。 30万円のエコポイントが利用できることもあり窓の断熱化と天井・壁・床の断熱化を行いました。
その際、どの程度の断熱工事をおこなえばどのくらいの効果が得られるかを検討するために建物全体の熱損失計算を行っています。 これは理論値ではありますが、灯油換算にして年間どれだけの
燃料を消費するかなども計算し、工事にかけるコストとその効果の
バランスも見た上で断熱の仕様を決定し工事をすすめています。

あわせて、老朽化が進んだ水廻りの改修を行い、システムキッチンや洗面所、ユニットバス、トイレなども新しい設備に交換しました。 大体30年もたつとこうした設備だけではなく水道管自体も中が赤
さびのようなものが詰まって細くなってきたり接続部分が腐食してピンホールができたりすることも多いのでそうした目に見えない部分も更新すればまた長い年月使用に耐えるようになります。

物件は建て込んだ市街地の中にあり、準防火地域ということもあります。 確認申請がいらないリフォームであっても現行の建築基準法にそって行うべきなのはもちろんのことです。耐震性ばかりでは
なく防火構造などにも適合するようちゃんと設計しなくてはなりません。 現在ではいろんな業種からのリフォーム業界への参入がありますが、そういった点ではやはり値段だけではなくちゃんとした設計
や施工ができるかという点も考慮していただきたいと思います。 
また、既存の建物の構造に関わる改造になりますので、やはり長年の経験がものをいいます。 資格を持っていたとしてもおいそれとで
きるくらい甘い現場はそうそうありません。

 既存建物の躯体(柱やはり)と屋根だけを残しそれ以外は手作業で解体して行くわけですが、解体が進むんでゆくにしたがってあちこちで新たな問題箇所が現れてきます。

これは、耐震診断の方法が「破壊検査」(建物の一部を壊して内部を詳しく調べる検査)ではなく、目視検査(建物は壊さず目で見られる限られた部分を調べる検査)を主とする「非破壊検査」と「設計図書
による計算」によることから生じる問題点です。 もちろん、シュミットハンマーや金属センサーや熱カメラ、その他の測定器を使ったりはしますが実際にその部分がむき出しになるまではわからないことも
確実に存在します。

          

腐った土台や柱、、大きく欠き取られた柱、増改築時のずさんな仕口、図面とは異なる柱やはりの位置、ブロック積みの無筋基礎等、いろいろな欠陥があらわれてきます。
もしもこの時点で耐震診断をしていたならば、もっと悪い結果になっていたことでしょう。

では、実際の工事の様子をみていきます


1.基礎の補強


この物件では基礎の一部が無筋のブロック積みだったり欠落していた部分があったので、その箇所にはコンクリート基礎を新設することにしました。

もちろん構造的に他の基礎と一体となるようにしなくてはなりませんが、柱が立っているその真下に後から基礎を造るということはなかなか大変なことです。 場合によっては既存の不良な基礎に沿わせて新たにコンクリートを打つとか、鉄骨の梁をかけるとか、様々な方法を模索しながら進めなくてはなりません。


                


新設された基礎の重要な箇所には通常の基礎ボルトよりも丈夫な「ホールダウン金物」と呼ばれる金物が取り付けられます。

もちろん、既存の基礎にも取り付けることができます。 構造検討の結果に基づき必要な部分をこうした金物で補強してゆくことになります。


           

2.柱・はりの新設と補強


耐震診断をもとに計算された箇所に柱を増設したりはりを大きくしたりして建物全体をバランスよく補強していきます。  ここでは、耐震改修で重要な「壁」の数や位置に留意しなければなりません
むやみに一部を頑丈にしても意味がありません。 要はバランスが重要なのです。 バランスの悪い建物は地震の横ゆれの力が一部分に集中したり、建物全体がねじれるように回転したりすることで
大きな被害を受けやすくなります。

全体的に力が分散されるように、ほどほどの補強をまんべんなく行うのが理想的なのですが、それは横方向の力に対してだけではなく縦方向の力に対しても同様です。
柱が腐っていたりする場合は当然ですが、もともと無理な設計で作られている場合も実はけっこうあります。 柱があるべきところになかったり、まずは必要な部分に柱や梁を入れて補強もしなくてはな
りません。 この家をつくった大工さんはいったいどういう人だろう?と疑問を感じながら工事を進めることも・・・・。

                  


3.筋違い・合板で壁の補強


耐震の肝のひとつである壁の強度を上げるために「筋違い」や「構造用合板」を用いて建物を丈夫にします。
よくいわれるのは「筋かいより2x4のような合板のほうが力が分散されるので安全である」という主張をする人がいますが、一面それは正しく、反面それは間違っています。
5センチの厚さの木材と9ミリのベニヤ板ではどちらが丈夫でしょう?という質問のような話で、使い方によってはどちらも丈夫であり、どちらもすぐ壊れてしまうのです。

適材適所という言葉がありますが、特に今ある建物を改修するような場合はそこにあった使い方が求められます。 新築工事より技術的にははるかに難しいのがこうした工事であるともいえそうです。

              


以上の各工事を行うことで、耐震判定の総合評点は1.26と改善され安全な建物となりました

今回の工事では、断熱改修工事も同時に行ったため壁を全面撤去するといった大掛かりな工事となってしまいましたが、耐震改修だけの場合は外部からの外付け改修や部分改修など安価に改善
できる方法もあります。

「正確な耐震診断と改修計画、そして確実な改修工事」とトータルに検討していくことが必要です。