建築のこと

計画

 ウッドデッキのところでも書きましたが健康で元気なうちは、自宅からちょっと離れたところに小さな畑とか自分だけのキャンプ場があって、そこに遊びに行く、という感覚で良かったのですが本当に落ち着いて楽しむためにはそれなりの設備が必要になってくるんだということがわかってきます。

(余計な話ですが、コルビュジェの休暇小屋は妻のために建てたともいわれていますが実際には奥さんはほとんど来なかったそうで、普通の女性にとってはあまり快適ではない小さすぎる家だったのではないかと想像します。
ステレオタイプな言い方をすれば、男の理想と女の理想とはかけ離れていることはよくあることですから。
 家族みんなに楽しんでもらえる家というのは、やはりそれなりの条件が揃っている必要があるのではないかと思います。)

 それなりの設備というのは、安全できれいな水、小ぎれいなトイレや小さくてもちゃんとしたキッチン、テントなどではない天候に左右されない快適な宿泊所、汗をかいたときのシャワー、季節を問わず利用するための冷暖房、などです。

 それって結局普通の家だよな、っていうことになるわけですが、そのくらいのものが揃っていれば、例えば別荘にもリモートオフィスにもなりますし、自分が使わなくなってきたら貸別荘や民泊のような利用形態にして収益化をはかるということもできるわけです。

 私の場合、商売上そういった小規模住宅のモデルハウス的な使い道もあるなぁ、とも考えたのですがとりあえずは最初のテーマであった両親に遊ばせてあげたい(ついでに自分も)、ということに専念しますが、いろんな目的に転用して行けるというのも考え方としてはアリだなと思います。
 そうなると、最初の開拓の部分でも考えた土地の区割りをもう一度見直してみるわけですが、今の仮設小屋を撤去してウッドデッキにくっつけて平屋のTinyHouse(小住宅)を造ろうと。
 アイディア的には色々あって、流行りのトレーラーハウスやコンテナハウスやキャンプ場のグランピングみたいなものもあるのですが、業者から購入して、それを運搬して組み立てて内外装や設備を取り付けて・・となると試算では本体価格以外にかかる費用が馬鹿にならず意外に高価なものになるようでした。 
 やっぱり一から普通に考えよう、というわけで再度スケッチから始めました。 参考にしたのは「SMALL HOUSE PLANS 350」とか「COTTAGE PLAN」という本や住宅雑誌、小屋造り関係の雑誌、そういえば特集があったなと昔のディテールなんていう建築雑誌まで引っ張り出したり、その他ネット上の自作ログハウスからちょっとした別荘動画まで色々ですが、「うーん、ピンと来ない」「寒冷地でガラス張りはないだろ」「オープンすぎてこれ家の中、虫だらけー」「材料、手に入んない」「米ぬか入れてかき回すの?トイレはウォシュレット欲しいよねー」「めっちゃ金かかるじゃん」「そこまで求めてない」とか、どうも自分には感覚が合わなさそうなものばかりです。

 で、イメージを膨らませて描いて出来上がったプランを家族にみせると「こんなのヤダー」「普通の家がいい」とか言います。 (笑)

 とにかくまずは建築の規制に何があるかを調べようっと。都市計画区域外だし(道一本はさんで区域外になってるんです)、確認申請もいらないし。
 とおもって役所に聞きにいってきました。

 都市計画課と建築指導課、上下水道課、教育委員会(埋蔵文化財)などですが、上下水道は入っていない(150m先には来ている)、景観条例の適用は県内全域適用なのでわかっていたのですが、大問題発生。
 埋蔵文化財包蔵地域かも・・・。 こんなところに何がある?
昔、坂上田村麻呂だかに討伐された残党だかが立てこもった(確かではないです。間違っているかもしれません。)のが後ろにある山!という話で、(げっ!)きわどいところで遺跡は出ないかも、ということだったのですが、基礎工事で掘るときは立ち合います、って言われました。
 二番目の大問題。 景観条例のことを聞きにいった建築指導課で「確認は出した?」・・・「え?いるの?都市計画区域外なんだけど」・・・
「いるんだよねー 岩手県は知事が全域指定してるから。」「ひえ~」

 というわけでこれは私の認識不足でした。大体にして都市計画区域外で住宅の設計や工事することなんてないもんね普通。
 建築基準法第6条には建築確認申請が必要な要件が書かれていて小規模の一般住宅の場合都市計画区域外は除外する、なんだけど、県知事が指定する地域は別。 ってのもかかれているわけで・・・うっかりしてました。 
 接道義務がないとか法22条の延焼防止規定がないとかそれなりの免除はあるんだけど、確認申請は必要なのでやっぱりまじめに図面描いて設計しなくては。

設計と手続きについて

 プランニングは最低限の面積区画を考えて横方向メーターモジュールと縦方向尺モジュールの組み合わせにします。トイレ・洗面脱衣・浴室は幅1.5mx奥行4mの1区画で、 ただし汗を流せればよくてバスタブはいらないのでシャワールームだけにします。
 どうしてもという時は後でジャグジーでもつくりゃいいやっ と。
 キッチンは2.5m程度の短めI型システムキッチンを探していたところ、ショールーム展示品のおさがりをみつけたので購入。人造大理石カウンターでIHコンロや吊戸棚、混合栓、シロッコファンなども含め10万円台前半でした。
 1階にダイニングキッチンと薪ストーブコーナー、2階は寝るところでロフトかな?なんて考えて立・断面図をかいてみたらさすがにロフトだと高さが足りないのと外観のバランスも悪かったので、柱をちょっと長めで定尺の13尺(4m)で収まるようにしたところ天井は低いですが2階建てになりました。 勾配天井にして高さを稼ぎますが、階段の登りきり部天井が低いのが難点ですが山小屋ですからかえって秘密基地らしくていいのかな、と思います。(気をつけないとたまに登り梁に頭をぶつけます。)
 さて、小さいとはいえ構造計算と熱損失計算をしますので、強度確保は山小屋風に太めの梁と面材で、断熱は壁体内のグラスウール充填と外張りのスタイロフォーム、窓は樹脂サッシュのLow-Eガラスペアとしました。屋根断熱は300ミリ厚くらい。
 威張れるくらい高性能というわけではありませんが予算もないことだしこんなもんで我慢します。

 常々言っていることですが、建築というのはバランス感覚です。
デザインもそうですが、性能や価格のバランス、良い意味でそこに住む人の年齢やライフスタイルなどとのバランスなども考えていかないとどこかで歪みがでてきます。

 で、図面化して確認申請図書一式と景観条例届出書を出してきたのですが、「自分で自分の家建てるの? ふ〜ん、自己責任だから問題ないね」って調子で1ヶ月経たないで手続きは終わりましたので着工となります。

着工

 基礎工事で掘るときは埋蔵文化財の係りの人が見に来たのですが「すいません。隣の土地まではあやしかったけど、ここは出てこないところだった。問題ありません。」とのこと。

 写真の通り基礎断熱の普通の布基礎です。 都市部でいつもやってるときはちゃんと両面張り120ミリ厚くらいの断熱にはしていますが、断熱板が片面しかなくて薄いのと立ち上がりの高さも普通より低いのは予算の関係です。 自分の「山小屋」だし結露しなけりゃいいや、ってな感じです。
 まさに自己責任なので・・・。

 近頃はべた基礎ばっかりみるんですが関東以西の基礎工事をみるとほとんど掘ってないべた基礎で驚くことがあります。 あれって残土処分費がすごく高くて、費用削減のためってのがほんとのところだと思うんですが、寒冷地では凍結深度が50センチ以上だったりするのでそれなりに掘らなきゃいけなくて、布基礎のほうが安心できるということもあります。
 表層土よりできるだけ下がっていたほうが支持力や滑りにも強いはずですしね。

 元あった仮設の小屋もどかせてウッドデッキにくっつけたいのですが型枠の幅の分や、断熱板のうえから保護のために仕上げ材を塗るので、施工性などからどうしてもピッタリ隙間なくというわけにはいきませんでした。
 あとからデッキ側で隙間を埋めることにします。
 また内部は給排水・電力のための埋設管貫通スリーブと薪ストーブ用に給気ダクトを入れたうえで厚めの土間コンクリートを打っておいて湿気や虫などが入らないようにしたのですが、工事中にょろにょろと蛇がはいってきたのにはびっくりしました。毒蛇ではなさそうだったのですが苦手なので長い棒で遠くへポイッ。
 基礎ができたら土台を敷いて建て方です。
伐採を仕事にしている知人が切った丸太をくれるというので十数本もらいました。 ヒノキの3~4m物ですので製材所で挽いてもらい、乾燥材ではないので土台として使わせていただきました。 足りない分は県産の杉柱と輸入材ですが米松をいつもの製材所から・・。

水のこと

 床下は鋼製束立ちのスペースに給湯給水の架橋ポリ管と排水管、一部電源線が通ります。 今ではすっかり水道配管はヘッダー方式になってしまいましたが基礎断熱で凍結することがなくなったというのが大きいですね。 実は寒冷地ですが水抜き栓もありません。
 井戸水は保健所で水質検査もしてもらったのですが大腸菌類他、有害物資はでなかったものの鉄分が多く水が鉄臭さかったため除鉄器と塩素消毒器を取り付けることになりました。
 岩盤下までボーリングしているのですが、国内で特に火山帯地域の地下水はどうしても鉄分が出ることが多いようです。 
 次亜塩素を加えることで殺菌と同時に水の中の鉄分が結晶化しそれを砂で漉すことで飲用水として利用できるというものですが、 時々は水質の検査キットを使ってみて確認しています。
 使用頻度にもよりますが除鉄器で漉した結晶化して貯まった鉄は数日おきに逆洗という方法で洗い流すことになります。
 そのための切り替えバルブがついていてドレンから専用の浸透桝に流すのですが、後日ここに洗濯機を置きましたのでその排水にも利用することになりました。
 もう一つ、今回こだわったのが屋外のデッキ脇に給湯給水の混合栓を取り付けたことです。
 除鉄・消毒の浄化装置を通した水を屋外のデッキにいるときも使えるようにキッチンから配管を延長してあります。
 もしかしたら屋外にバーカウンターやジャグジーまでいかなくても浴槽かシャワーなんかを設置することがあるかもしれないと思ったからです。
 どうなるわかりませんが・・・

トイレのこと

 上下水道が通っていない場所ですから選択肢は浄化槽か汲み取りかの2つだけです。
 浄化槽の場合、放流先も敷地に接していないので浸透式にせざるを得ないのですが、結構これの管理は大変です。 半永久的に使えるわけでもなく、20年未満で作り替えをしなくてはなりません。 管理業者を決めて毎年定期的に管理・汲み取りも行わなくてはなりませんので設置コストと維持コストで便槽汲み取り式と金額はあまり変わらなくなってしまいます。

 便槽汲み取りの場合だと、従来式では便器から1.5m以内に便槽を設置して臭突などもつけなくてはならないので、見栄えがわるいのと匂いの問題も出てきますし、今回トイレが玄関近くにありますのでこれは大問題です。

 そこで今回は圧送ポンプを利用することにしたのですが、これはほぼ通常の水洗トイレで、ウォシュレットなども使え、排泄物をミキサーのように砕きポンプで遠く離れた(最大110m先の)便槽まで送れるそうです。

 で、便槽は7mほど離れた崖際に1000Lのものを設置しました。
容量的にはもう少し大きいほうが良いのですがダイワ化成の「どこでもトイレ」という超節水便器で2Lの水で洗浄できるという特殊なものを設置することで対応しました。 
 便座はINAXのシャワー便座ですので普通に水洗トイレです。
 汲み取り頻度は現況4か月に1度程度ですので年に2万円ちょっとの汲み取り料がかかることになりますが、これは使用人数・日数など利用状況によってかわりますので参考まで。

人生を楽しむためのミニマムサイズの家